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「薔薇の精」
振付:ミハイル・フォーキン
音楽:カール・マリア・フォン・ウェーバー(編曲:L.H.ベルリーズ)
台本:ジャン・ルイ・ヴォードワイエ(T.ゴーティエの詩による)
装置・衣裳:レオン・バクスト

 フォーキンがウェーバーのワルツ『舞踏への招待』(ベルリオーズ編曲)に振付けたこの一幕作品は、フランスの詩人・小説家であり、『ジゼル』の台本作者としても知られるテオフィル・ゴーティエの詩から想を得て創られた。「......あなたのまぶたを開けて下さい。私はゆうべの舞踏会で、あなたが胸につけて下さったあのばらの精です......」

 バレエ・リュス旗揚げの1911年はゴーティエ生誕百年にあたる年でもあった。まずディアギレフが本拠地に定めたモンテカルロで、その後パリで公開されたが、薔薇の精をニジンスキー、少女をタマラ・カルサーヴィナが踊った舞台にパリの観客は熱狂した。初めての舞踏会の高揚感に包まれてまどろむ少女の寝室の開け放たれた窓から、薔薇の精が華麗な跳躍で不意に現れ、ひとしきり少女と踊ったのち、夜の闇へ飛び去ってゆく。このときニジンスキーの跳躍は伝説となった。  

 フォーキンはごく短期間に作品を完成させたが、振付の細部にこだわらないタイプだったため、両性具有的で揺れ動くような薔薇の精の動きはニジンスキーが考えたものだともいわれる。一場の夢のようでありながら、幻が現身の少女と交歓するこの世ならぬ熱情が立ち上り、どの少女も経験する思春期の憧れ――あるいは秘め事――を暗示するこの作品は、濃密な余韻と一種の充足、そして淡い哀しみを感じさせる。愛され、踊りつがれてきたのは、男性ダンサーの技巧の試金石になるからではないだろう。フォーキンはいう。「バラの精は魂であり、希望である。また、バラの香気であるとともに花弁の愛撫であり、口では言い表せないものである」(『ニジンスキー頌』)