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東京バレエ団初演「アルルの女」公開リハーサルレポート&作品紹介

東京バレエ団初演となるローラン・プティ振付「アルルの女」。

全曲を観る機会が滅多にない"幻の傑作"ともいえる本作の上演に先駆け、去る5月23日に公開リハーサルを行いました。その様子を、作品の紹介もおりまぜながら舞踊評論家の新藤弘子さんに寄せていただきました。

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 5月23日、東京バレエ団のスタジオで『アルルの女』の公開リハーサルが行われた。9月の〈20世紀の傑作バレエ〉公演で、東京バレエ団が初めて上演するローラン・プティの振付作品だ。

 「怖がらないで、しっかり触れて。それはタッチじゃない、こうだよ」

 若い頃からプティ作品を踊り続け、プティ亡き今は世界中でその振付の指導にあたっているルイジ・ボニーノが、フロアに歩み出てダンサーたちに手本を示す。語り口は茶目っ気たっぷりだが、指導は真剣そのものだ。主役フレデリとヴィヴェットを踊る柄本弾と川島麻実子が、ボニーノの動きを見つめ、言葉に耳を傾ける。細い身体をそよぐようにしならせる川島の動きは、繊細な指の先まで、フレデリへの切ない思いにあふれている。だが彼女のすぐそばに立つ柄本は、はるか彼方を見つめたまま。そこにはすでに、プティがこの作品に込めた胸を締め付けるようなドラマの香りが立ち始めている。

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 もう1人の主役、上野水香もリハーサルにのぞんだ。上野は牧阿佐美バレエ団在籍時代からプティにその資質を高く評価され、振付家本人の指導を受けて多くの作品を踊った経験を持つ。『アルルの女』は、2016年にモスクワで行われたクレムリン・ガラでロベルト・ボッレとパ・ド・ドゥを踊っており、再び彼と組む今回は、さらに磨きのかかった演技が期待されている。フロアに立っただけで視線を集める華と、のびのびとした動きの美しさは、上野独特のもの。男性的かつ華麗な持ち味のボッレと全編を踊る本番では、さぞ表情豊かな、スケールの大きい踊りが観られることだろう。ボッレの代役でリハーサルに参加した秋元康臣の、正確でスピード感のある跳躍も目をひく。真剣で熱のこもった演技の応酬に、いつかはこのペアでも観たいと、欲張りな期待も芽生えてくる。

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 フランスの小説家アルフォンス・ドーデの戯曲とジョルジュ・ビゼーの組曲をもとに振付けられた『アルルの女』は、プティの指折りの傑作であり、歴代の世界的な名ダンサーたちが名演技を披露してきた。パリのミュージック・ホールを思わせる軽妙洒脱な作品も多いプティ振付だが、その一方には人間の心の奥底を鮮やかに浮かび上がらせる作品があり、『アルルの女』はその代表のひとつだ。アルルの闘牛場で見かけた女性に心奪われたフレデリと、ひたむきに彼を思うヴィヴェット。甘く優しいメヌエットや熱狂的なファランドールなどに乗せて描かれる結婚初夜の2人の姿は、その絶望的なすれ違いが凄絶な美しさへと転化して、ぐんぐん観客の胸に迫る。リハーサル後の記者懇親会で芸術監督の斎藤友佳理が語ったように「99%が内面の表現」であり、これを踊るダンサーを大きく変化させ、成長させる作品なのだ。

 リハーサルの終盤、ボニーノや群舞指導のジリアン・ウィッティンガムはじめ、群舞のダンサーや記者たち全員の見守るなかで、柄本がファランドールのソロに挑んだ。激しくたたみかけるような音楽に乗り、鍛えられた身体が躍動し、届かぬ何かにむかって幾度も手が差し伸べられ、やがて渦巻くようなマネージュの軌道に乗る。最後の跳躍までその勢いは衰えず、終了の瞬間、ダンサーからもギャラリーからも自然に拍手が沸いた。

 「とてもよかった。いまのテンポを覚えておいて」

 ボニーノの満足げな声がリハーサルを締めくくった。

新藤弘子(舞踊評論家)

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