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2017/04/21

東京バレエ団 シュツットガルト公演「ラ・バヤデール」 ~現地の公演評①

盛況のうちに幕をおろした東京バレエ団シュツットガルト公演『ラ・バヤデール』。
今回はドイツの4紙に公演評が掲載されました。
今日から2回にわけて、公演評の抜粋をご紹介いたします。
現地からとどいた美しい写真とあわせてお楽しみください。


エスリンガー紙 Eẞlinger Zeitung  2017年4月10日付

ヒマラヤのアヘンの陶酔
東京バレエ団がシュツットガルト州立歌劇場において
『ラ・バヤデール』を客演 - 新しくも古い古典作品

アンゲラ・ラインハルト Angela Reinhardt


 <影の王国>、すなわち死んだバヤデール(舞姫)たちの場面は、「白い場面」である。その個々のヴァリエーション、長いヴェールによって結ばれた恋人たちもろとも、『ジゼル』および『白鳥の湖』を含めたあらゆる昔ながらの古典の中で実際もっとも美しい。まさにこの場面を日本の女性ダンサーたちが、音楽が香り立つような様も、叙情性においても一つになって踊る一体感は、毒蛇に噛まれて死んだ恋人のニキヤを忘れるために戦士ソロルが吸ったアヘンの効果のように恍惚とさせるものがある。
 さらにほかの大部分のバレエよりも、筋書き自体が魅力的なのだ。『ラ・バヤデール』がシュツットガルトにおいて一度も演出されなかったのは、女性ダンサーにかかる負担が極端に大きいということに原因があるのかもしれない。(中略)バレエ団のプリマバレリーナ(プリンシパル)上野水香がきゃしゃで叙情的、長いバランスという非常に徹底したスタイルで演じるニキヤ、それはまさに献身的な、ほぼすでにあの世の恋人にも、尊大で冷たい美貌のライバルの伝田陽美にも - 東京バレエ団の女性ダンサーにはすべての小規模なソロ、特にすべてのアンサンブルにおいて完璧に揃っていることにおいても感銘を受ける。このレベルはほかにはロシアの世界トップクラスのバレエ団でしか見られない。
 われわれ旧知のダンサーがヴィルトゥオーゾな踊りのブロンズ(黄金)・アイドル役で戻ってきた。宮川新大はジョン・クランコ・バレエ学校で教育を受け、東京バレエ団でファーストソリストに昇格した。

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photo:Ulrich Beuttenmueller



オンライン・メルケル Online Merker  4月10日付

シュツットガルト 
「ラ・バヤデール」を携えた東京バレエ団による客演
異界からのめずらしい高価さ

ウド・クレベス Udo Klebes


 『ラ・バヤデール』が我々に馴染みが無いのは、物語の進行を語るために用いられる、わずかに大仰な手話ももちろんなのであるが、火への誓いを飾るディベルティメント、婚約と結婚の宴ならびに夜の影の場面、それらが、踊りによって表現されるためである。踊りの正統性はしかし、19世紀においては必須であった伝統としての総合芸術としてのまとまりとして、また東京バレエ団のダンサーによる芸術的価値の高い、様式的にも感情移入できるプレゼンテーションにおいて明白である。

 その筆頭は、繊細できゃしゃな一方で、ここぞという所では力と立ち居振る舞いで主張するニキヤ役の上野水香である。この世では、上野は非常に明確で決然としたアクセントをつけ、際立った音楽的情熱で魅了し、"影の王国"では、次々とアラベスクパンシェをする24人のコール・ド・バレエの群舞を優美に、かつつま先を宙に浮かせ、一貫して一糸乱れずリードする。
 伝田陽美のガムザッティは、少しクールな美しさと十分な誘惑力とともに正確なラインと均等な跳躍を兼ね備えたライバルである。マカロワは、再演出をした最後の幕において、ガムザッティにソロとパ・ダクシオンを踊らせることで、役にふさわしい格上げを行った。これら対照的な二人の婦人の間で、美形の柄本弾は、誇り高い戦士というよりも、とりわけテクニック的に信頼のおける、どちらかといえば小柄ながらも喜ばしいことにその豊かな跳躍力と回転能力のおかげで、多くの可能性と表現力を備えたソロルとして健闘している。

 ソリストとしては、そのほかとりわけ"影の王国"における3つの影の中川美雪、三雲友里加および二瓶加奈子らがそれぞれのヴァリエーションをひっくるめた極上のパフォーマンスにおいて、また象徴性の強いブロンズ・アイドルとして宮川新大が卓越した身体コントロールで、実力を発揮している。(大増正の)森川茉央、(ラジャの)木村和夫、(マグダヴェーヤの)入戸野伊織および(おべっかを使う侍女アヤの)矢島まい、らは、品位のある衣服にも助けられ、純粋に身振りでこれらの役柄に輪郭を与えることに成功している。

 "影の王国"に言及した際、アンサンブルの素晴らしい出来栄えについてはすでに述べたが、そのほか僧侶、行者、召使および祝宴の人々のグループの情景において要求される男性のコール・ド・バレエも素晴らしい。この一貫して完全に等しくコンディションの整ったカンパニーは、活き活きと保たれたロマンチックバレエ芸術の従順な僕(しもべ)としての姿を見せるのである。

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photo:Ulrich Beuttenmueller