「かぐや姫」第1幕 世界初演まであと2日となりました。本日は本作の衣裳デザインを手がけた廣川玉枝さんからのコメントをご紹介します。
ぜひご一読ください。
今までも各段階でダンサーの皆さんには衣裳を着用頂き確認はしていましたが、こうして皆さんが揃って衣裳を着て動いている姿をみると、かぐや姫の世界観ができてきたなという手応えを感じました。
今回の衣裳製作にあたって重要視したポイントのひとつが軽さです。ダンサーの皆さんが踊りやすいよう、軽く、動きやすい衣裳にすることは非常に重要なポイントです。今回使っている素材は、身体にあわせてグラデーションプリントを施したり、プリーツ加工をかけるなど、舞台上でより美しくみえるように工夫をしています。
1幕の最後に、かぐや姫が都に行くシーンがありますが、ここでは最初と違って豪華な衣裳に身を包んだ「姫」に変身します。この場面でかぐや姫が着用するのは十二単をイメージした衣裳。日本の伝統色の緑色をベースにし、かさね色目で竹を想起するようなデザインにしています。
リハーサルより。(写真左から)道児役の柄本弾、かぐや姫役の秋山瑛
かぐや姫の衣裳を確認する金森穣(写真左)
廣川 玉枝(SOMA DESIGN クリエイティブディレクター/デザイナー)
2006年「SOMA DESIGN」として活動開始。同時にデザインプロジェクト「SOMARTA」を立ち上げる。同年「身体における衣服の可能性」をコンセプトにボディウエアシリーズ"Skin"を発表。2007年S/Sより東京コレクション・ウィークに参加。第25回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞
Canon[NEOREAL]展(2008 Milano)/ TOYOTA [iQ×SOMARTA MICROCOSMOS]展(2008 Tokyo)/
Mercedes-Benz [SOMARTA x smart fortwo "Thunderbird"] (2012 Tokyo)にてインスタレーション作品を発表。
YAMAHA MOTOR DESIGNとのコラボレーションで電動アシスト車いす[ 02Gen-Taurs(タウルス) ](2014)を発表。
京都の友禅染、西陣織老舗との協業により新時代の和装をコンセプトに[Kimono-Couture](2014)を発表。ASIAN COUTURE FEDERATIONのメンバーに正式加入(2014)。
国内外初の単独個展「廣川玉枝展 身体の系譜 -Creation of SOMARTA-」(2014 Tokyo)を開催。
SOMARTAのシグニチャーアイテム"Skin Series"がMoMAに収蔵され話題を呼ぶ(2017)。
WIRED Audi INNOVATION AWARDを受賞(2018)
去る8月に上演された〈横浜ベイサイドバレエ〉の野外ステージでは「ギリシャの踊り」のソロを、9月の〈舞踊の情熱〉公演では「M」のソロを踊り、ベジャール作品で高い評価を確立してきた池本祥真(東京バレエ団ファースト・ソリスト)。11/7(日)に上演する「中国の不思議な役人」では、第二の無頼漢―娘、という異色の役柄に挑戦します。本番を前にした池本が作品への想いを語りました。ぜひご一読ください!
リハーサルより。第二の無頼漢ー娘を演じる池本祥真
「娘」という役をどう演じるかが最大の課題
Q 今回初めて挑戦する作品ですが、配役を聞いたときの心境はいかがでしたか。
池本祥真 バレエ団の同僚たちと「また踊りたい作品」を話すときによく名前があがっていたんですが、僕が入団してからは(2018年入団)上演していなかったので、配役を聞いたときは「娘??」という感じでした。まわりからは「池本くんなら似合うよ」とは言われましたが(笑)。
Q リハーサルも佳境に入ってきましたが、どのような作品だと感じていますか。
池本 第一印象は、「これまでやってきたベジャール作品とテイストが違う!」。「ギリシャの踊り」「舞楽」「M」そしてまだ踊っていませんが「火の鳥」などは明確な物語がなく、動きによってストーリーが連なっていく、どちらかというとテクニックが重要な作品で衣裳もシンプルです。対して「中国の不思議な役人」は物語があって、衣裳も役のキャラクターを反映させたもの。役をどう演じるかが最大の課題だと感じています。
振付としてはクラシック・バレエにはない形ですが、踊っていてとても気持ちが入りやすいんです。これはベジャールさんの作品ならではだな、と感じます。
2017年の上演より
役の内面をきちんと理解し、動きを台詞のように
Q リハーサル中に指摘されたことで、印象に残っていることはありますか。
池本 リハーサルの進め方でいうと、「M」の場合はベジャールさんの型をしっかりやることが第一でした。そのため「指は揃えて」「首の角度は」という動きのニュアンスを注意していただくことが多かったです。今回、十市さんは「この時娘はこういうことを考えているから、次のこの動きにつながっていく」というように、1つ1つの動きに込められた意味を非常に丁寧に教えてくださっています。役の内面をきちんと理解し、動きを台詞のように、自分の中にしっかりと入れたうえで踊りとして表現していかないと意味をなさない作品です。
Q 女性を演じる男性、を演じるわけですが、どのようなことを感じていますか。
池本 ヒール靴に大苦戦してます。まだ全てとおして踊っていないですけど、捻挫しそうです(苦笑)ただ、ヒールを履くことで足元が不安定になるので、そこをうまく利用して女性的なラインを表現できたらと思っています。
本質的にこの役は男です。なのであまり美しく演じてもいけない。お客様には美しさを期待される方もいらっしゃると思うので、難しいところですね。
まだ完全につかめてはいないですけど、彼は自分の中に葛藤をかかえていて、女を演じる振りの中に時折、自分に嫌気がさしているような部分があるんです。彼の内面が振りのはしばしににじみ出ることで作品に深み、面白さが出る。目指すところは結構明確になってきました。
リハーサルを指導する小林十市
振付どおりにやると音にピッタリとはまっていく
Q バルトークの音楽についてはどうですか。
池本 確かに音をとるのが難しい作品なんですけど、ベジャールさんの振付ってそのとおりにやると、音にピッタリはまっていくんですよ! 曲が盛り上がるところは振りも激しく、穏やかな曲調では振りも静かになる。セリフが音にのっているような感覚で、役の気持ちもものすごくのせやすい。音楽に助けられていると感じます。
Q 最後に、お客様にこの公演の見どころを改めてご紹介ください
池本 「かぐや姫」は世界初演だし、僕もすごく楽しみです。こんなすごいプログラム、東京バレエ団でしか上演できないですね。
「中国の不思議な役人」はこれまで全く接点のなかった作品だけど、ダークな雰囲気のあるとてもかっこいい作品です。僕の役はだいぶ変わってますけど(笑)ただ、改めて思うと、バレエで男性が女装して踊る役って基本はコミカルな役じゃないですか? 女装するシリアスな役は他に思いつかないです。その意味でも独特の世界観のある作品ですから、お客様にしっかりとその雰囲気を感じていただけるように、そして僕の新しい一面をみていただけるように頑張りたいと思います!
古典から現代作品まで幅広いレパートリーで活躍する宮川新大(東京バレエ団プリンシパル)。きたる11/6(土)、11/7(日)の公演では「中国の不思議な役人」、そして「ドリーム・タイム」と2作品に主要な役で出演する宮川に今回の舞台にかける想いを聞きました。ぜひご一読ください。
Q 「中国の不思議な役人」の「第二の無頼漢―娘」というのは、ズバリどういう役でしょうか。
宮川新大 男性が女装し、男たちを誘惑しているという設定の役ですね。歌舞伎の女形のように美しい女性を演じるというものではなく、男性である面はしっかり表現しないといけない。舞台も売春宿というか、闇につつまれたアンダーグラウンドな世界ですから、ちょっとグロテスクな雰囲気を出していくことも重要な役です。他のベジャールさんの作品と比べても、かなり異質な存在なんじゃないかなと思います。
Q 娘役は衣裳も独特ですよね。
宮川 最初みたときはびっくりしましたけど、踊りやすいんですよ(笑)。ストッキングにつけまつげ、女性の要素を外側からどんどん足していけるので、その意味では役に入り込みやすい。女性の気持ちにも近づけたんじゃないかな? ただ、ヒールを履いて踊るのはかなり大変でした(苦笑)
女性の衣裳を着ていても、あくまでも男性の役なので、美しいだけではダメ。男らしさやちょっと泥臭い感じも出していかないといけない。
2017年の公演より、第二の無頼漢ー娘を演じる宮川
今の僕にあった表現を追求していきたい
Q 普段は女性をサポートされる側ですが、今回はサポートされる役です。
宮川 もちろん、リフトのタイミンなど技術的な課題は色々あるんですけど、クラシックではないので、この作品では演技や表現の方が重要ですね。例えばソロを踊るにしても中国の役人とシェフ(無頼漢の首領)に対して表情を変えていかなければならないので......。
Q 4年ぶりの再演にあたり、今回はどのような点を意識してリハーサルしていますか。
宮川 4年前に出来たところは残しつつ、今の僕にあった表現を十市さんと創っていきたいです。年齢を重ねて、積み上げてきたものがあるので。
前回は「女」を表現することに注力していましたが、今回はもう少し男性的な面を押し出し、「男性が演じる女性」という役の側面をクリアにしていけたら。前回の自分が踊った映像も見直していますが、「もう少し崩してもいいかな...」と考えています。
それから、僕が踊る11/7(日)の回は若い男を演じる伝田陽美さん以外は初役のダンサーばかりなので、きっと雰囲気も変わってくるだろうし、僕もしっかりみんなを引っ張っていかないといけない。
「中国の不思議な役人」リハーサルより
Q 今回は「ドリーム・タイム」にも出演します。
宮川 実は今回「ドリーム・タイム」を国内で初めて踊るんですよ。初めて踊ったのはなんとミラノ・スカラ座、いきなり斜舞台(笑)。2019年の海外ツアーの時だったので、あまりリハーサルの時間もなく、大変だった思い出があります。
初めて客席から観たときにその美しさに感動した作品だし、ずっと日本でも踊れたらと願っていたので、今回実現して嬉しいです。
キリアン作品は自分で突き詰めていける
Q 同じくキリアンの「小さな死」も経験していますが、キリアンの作品の特徴はどんなところにあると感じますか。
宮川 ダンサーにとってキリアンは「ハマる」振付家なんじゃないかな。クラシックだと見せ場を意識せざるを得ないけれど、キリアンは自分で突き詰めていける要素が強いので、より踊りに集中できる気がします。それからキリアンの振付は全てが流れるように見えることも重要ですね。友佳理さん(斎藤友佳理/東京バレエ団芸術監督)に「力を入れるところと抜くところ、そのコントラストをしっかりお客様にみせてほしい」とリハーサル中に言われたことが強く印象に残っています。
質問から少しそれますけど、キリアン作品から得た、これまで自分が知らなかった身体表現を、今後は別の作品を踊る際にも活かしていけたらと思っています。
2019年のミラノ・スカラ座公演より。この時の相手役は岸本夏未。今回は三雲友里加が同役をつとめる。
Q 改めて、「ドリーム・タイム」の魅力はどんなところにありますか。
宮川 幕があいて、セットが次第に上にあがっていく、それだけで異空間にいるような錯覚にとらわれます。名前のとおり"ドリーム"ですね。「小さな死」がセクシャルな人間的な要素をテーマにしていることに対して、幻想的な美しさに溢れた作品と言えるんじゃないでしょうか。踊る側にとっては1つ失敗するとあとが続かなくなる怖い作品でもありますけど(笑)
短い作品の中で、あえて注目ポイントをあげるとすれば、僕と三雲友里加さんのパ・ド・ドゥです。彼女が踊るパートは3名の女性の中で1番強い女性で、僕たちがフラフープと呼んでいる男性が低い位置で女性をぐるぐる回すような難易度の高い大技がたくさんでてきます。
音楽的にも武満さんの旋律にはどことなく和を感じますし、日本人の感性にはあっているように感じています。
本番までもう少し時間があるので、もっと良い表現ができるように2作品ともしっかり踊りこんでいきたいと思います。
11/6(土)、11/7(日)に上演する「中国の不思議な役人」には、東京バレエ団初演から小林十市さん(元モーリス・ベジャール・バレエ団)が来団し、指導にあたっています。本作の初演キャストの1人でもある小林さんに改めて作品の魅力を伺いました。今回の上演にまつわる貴重なエピソードが満載のロングインタビューです。ぜひご一読ください。
──『中国の不思議な役人』はベジャール1992年の作品ですが、小林さんもモーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)のダンサーの一人として創作の場に立ち合われていますね。
小林十市 ベジャールさんが「より密度の高い創作活動をしたい」とカンパニーを縮小し、最初に創ったバレエがこの『中国の不思議な役人』です。当初僕は、アンサンブルの一人として参加していました。60人以上いたダンサーが25人になり、カンパニー内の風通しが良くなった分、誰も群舞の中にまぎれることなく、「一人ひとりがソリストと思ってやってほしい」とベジャールさんに言われた記憶があります。
東京バレエ団では2004年の初演からこの作品を指導させてもらっていますが、実はその際、アンサンブルの人数を増やしました。とはいっても限度がある。増やしすぎると音の長さが足りなくなり、うまくはまらなくなる。4人増が最大限でした。
──今回、併演する作品のリハーサルとの兼ね合いで、役の割り振りに工夫をされたと聞きました。終盤で役人に対して送り込まれるランジェリー姿の女性たちは、通常、前半では男性の衣裳を着てアンサンブルに参加し、その後衣裳を変えて登場していましたが、今回は独立した役としてキャスティングされたそうですね。
小林 リハーサルの進行の関係で、彼女たちには終盤のランジェリーの場面だけに出てもらいます。実は彼女たちには「幽閉された女たち」という役名があるんです。ベジャールさんは、「青ひげ」*に出てくる女性たちだと言っていました。無頼漢の首領(シェフ)が、青ひげに幽閉された女性を連れてきて仕事をさせているんだと。
*ペローの童話に収録された、「青ひげ」は、先妻たちをあやめた残忍な男の物語。これに想を得てベラ・バラージュが台本を書いた『青髭公の城』は、1918年に発表されたバルトーク唯一のオペラ。
キャラクターとして生き、その場に存在してくれないと作品として成り立たない
──数あるベジャール作品の中で、これはどのような位置づけにある作品といえるでしょうか。
小林 芝居の要素が強い作品です。僕が皆に求めるのも、バレエのマイムではなく、"道端のリアクション"──普段、何かを見たり観察したりした時に身体がどう反応するのか、どう思考するのか、が重要で、作品の中の出来事を今、そこで起こっていることとして捉えてくださいと、ダンサーたちに言っています。
まだまだ皆には戸惑いがあるようです。この作品に関しては動きができていればいいというわけではなく、キャラクターとして生き、その場に存在してくれないと作品として成り立たない。あの無頼漢の一味は、ストリートギャングで、飢えていて貪欲で、人を出し抜いても利益を得たいという連中の集まり。そうした感覚に基づく一体感があれば、この作品独特のダークな世界観が見えてくるのではないかと思います。
──タイトルロールとともに重要な役割を担うのが、「娘」です。どのような役作りを求められますか。
小林 どこか人間臭く、グロテスクなものが混じり合ったようなところが出るといい。綺麗に演じようとしてはいけないと思います
「若い男」を簡単に騙し、お金を奪って得意気になっていたら、今度は全然違うタイプの「役人」が来て、これにどう対処していいかわからない。不安に襲われ、緊張し、身体をこわばらせる。そんな娘を言いくるめようとするシェフの狡猾さも見えると、面白い。どんなふうに言って娘を安心させ、仕事をさせることができるのか。それをセリフなしでどう表現するか。それは、自身の中に言葉を持っていないと動きには現れません。リハーサルでは、ダンサーが身体で表現するそのセリフは合っているのか、辻褄は合っているのか、ということに注意して見ています。ベジャールさんの動きは音にぴったりとはまっているのですから、あとは、音楽通りに動けば客席に伝わると思います。
BBLでは相当の時間をかけてこれを初演し、その後何シーズンにもわたって、ツアーで上演してはローザンヌに戻ってまた一からリハーサル、ということを繰り返していました。それを東京バレエ団では3週間で上演する──。僕の責任はとても重いです(笑)! 初めて観た人に、「なんだ、これがベジャール?」ではなく、「なんかよくわかんないけどよかった」って言われたいし、お客さまにあの世界観を受け取っていただけるようにしたい。
リハーサルより。中央は 第二の無頼漢ー娘 を演じる宮川新大
バルトークの音楽の凄みがベジャールさんの振付で立体化される
──あらためて、この作品の魅力はどんなところにあると思いますか。
小林 九十何年のことだったか、フランス・ツアー中になぜか客席で『中国の不思議な役人』を観たことがあります。役人を演じていたのはジル・ロマン(現モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督)。言葉がないのに、まるで、音がセリフのように感じられ、会話が見えるように思えて、鳥肌が立ちました。バルトークの音楽の凄みが、ベジャールさんの振付で立体化されたように思えて、凄いなと感じたのを覚えています。
──創作現場に立ち合われたことはとても大きな体験だったのではないでしょうか。
小林 ベジャールさんの言葉や動きで強く印象に残っているものがあります。たとえば、「ワシのように」とか、「虎の爪のように」とか──部分的に鮮明に覚えているものがあります。東京バレエ団で指導するたびに見ているのが、1994年のBBL日本公演を収録した、NHKで放映された映像なのですが、今見ると皆、教えられた振付をちゃんとやっていないんですよ(笑)。それでも作品として成立しているというのは、皆が役として舞台上にいるからです。
僕は当初、役人と娘の両役のセカンドキャストでした。スタジオに張り出された配役表には、役人が上からジル・ロマン、ジュウイチ・コバヤシ、ドメニコ・ルヴレと書いてあり、娘のほうにはクーン・オンズィア、ジュウイチ・コバヤシ、ファブリス・セラフィノと書いてあったんです。でも両方はできませんと、迷わず役人のほうに専念(笑)。実際、その後僕は役人を踊り、娘役はファブリスが踊っていましたが、実は僕も、1995年に1回だけ、娘役を踊りました。これもフランス・ツアー中。役人はドメニコで、僕は和のルックスを活かした狐のお化けみたいなメイク(笑)。その舞台、すごく楽しかったです!
モーリス・ベジャール・バレエ団の公演より。中国の役人を演じる小林十市
無頼漢の首領役、鳥海創を指導する小林十市
メンバーの関係性が創作に活かされた初演
──リハーサルでは、シェフと娘の関係性、その表現をとても重視されているそうですね。
小林 そうなんです。ダンサーたちにも言いましたが、1日の仕事が終わって、今日どれくらい稼いだかとお金を数えるのは、絶対あのシェフと娘の二人でしょう。他の下っ端たちはそこには入っていけない。とくに役人の登場シーンは、二人の親密さを垣間見ることができる面白い場面です。
ベジャールさんは、初演メンバーたちの関係性を創作に利用しています。初演の娘役のクーンはベルギー人ですが、イングリッシュ・ナショナル・バレエで活躍していた。シェフのマーティン・フレミングは、オーストラリア・バレエ団出身で、つまり、二人とも英国の文化圏で活躍したベースがあり、近しいものがあった。たまらなく絶妙なコンビなんですよ。笑ってしまうほどに!
1994年の映像も本当にすごくて、クーンがいて、さらにジルがいる。ジルは本気で怒っているのではないかと思えるほど、リアル。本当にそこで起きている生の感情が、この舞台の上にある。まさに"神回"(笑)! これは僕にとってのバイブルで、今回も改めて見直し、そこに近づけていくためのサポートをしたいと思って取り組んでいます。
毎回、新たに気がつくことがある
──東京バレエ団で指導することで、新たな発見はありましたか。
小林 毎回ベストを尽くしてきたはずなのだけれど、なぜかまた新たに気付くことがある! たとえば今日リハーサルした場面──。役人に手こずった娘は、シェフのもとに戻る。でもシェフはアコーディオンを弾いて自分の世界に入っているので、娘は苛つき、彼を小突くという場面です。あれはただ単に間を取っているのではなく、役人から一時的に逃げて、シェフに助けを求めに行くんだなということが、今回初めてわかった(笑)。音楽も実はとてもゆるやかで、シェフは娘を穏やかに説得する。今まではわりと激しくやっていたのだけれど、そこは少し変えています。あとは、ダンサーたちがしっかり彼らの親密さを出してくれたらと思うのですが、こんなふうに毎回、新たに気になってくることがあるのです。
──今回の公演は、ベジャール作品、キリアン作品、金森穣さんによる世界初演作品のトリプル・ビルとなりますが、このプログラムについてはいかがですか。
小林 これはもう、穣くんヒストリーです。1992年にバレエ団が縮小された時、同時に設立されたのが学校=ルードラです。穣くんはこの年、ルードラの第一期生として入ってきて、『中国』の創作時には同じ場所にいたわけです。そしてその後彼が活躍したのはキリアンのカンパニーでした。深い縁を感じます。
金森穣振付「かぐや姫」第1幕 世界初演に向け、リハーサルと並行して装置や衣裳の準備が進められています。10月21日には、1幕に出演するダンサー全員の本番の衣裳をチェックする通称"衣裳パレード"が東京バレエ団のスタジオで行われました。
スタジオにはラックにかけられた衣裳が次々と運び込まれていきます。
この日は金森穣氏をはじめ、アシスタントをつとめる井関佐和子氏、衣裳デザインを手がけた廣川玉枝氏、衣裳製作の武田園子氏に加え、東京バレエ団の舞台を長年手掛ける立川好治氏(舞台監督)ら、本作にかかわるスタッフが見守る中、ダンサーたちが本番で着用する衣裳を身にまとい、その感触を確かめていました。
作品冒頭に登場する緑の精の衣裳。金森氏自ら素材やフィット感、見え方を細かくチェックしていきます。
主役のかぐや姫の衣裳を身にまとった足立真里亜。1幕のかぐや姫はまだ若くて幼い少女という設定です。
道児(かぐや姫の幼なじみ)の衣裳を着た柄本弾。まわりのダンサーやスタッフから「似合っている!」という感嘆の声がこぼれていました。
道児のヘアバンドは別のいくつかの素材も試されていました。さて、本番で登場するのは......?
衣裳を着用したあとは、試しに実際の振付をいくつか踊り、動きやすさを確認していきます。また、舞台では衣裳が並んだ際の色味も重要になるので、同じ場面に登場するダンサー同士、衣裳を着て並んでチェックをすることも衣裳パレードの際の重要なポイントです。
こちらは第1幕最後の衣裳を着用したかぐや姫役の秋山瑛。今回上演する第1幕では、かぐや姫が都に行くまでが描かれています。彼女が粗末な着物から宮廷風の衣裳に着替え、変身する場面もぜひご注目ください。
第1幕にはこの他にも大勢の人物が登場します。彼らはどのような衣裳をまとっているのか......続きはぜひ劇場でお楽しみください。
11月6日、7日に世界初演をむかえる金森穣振付「かぐや姫」第1幕では、ベジャール振付「中国の不思議な役人」、キリアン振付「ドリーム・タイム」の2作品を併演するという非常に充実したプログラムが組まれています。
上演作品のうち、「ドリーム・タイム」に出演する沖香菜子のインタビューをお贈りします。ぜひご一読ください!
ポイントは呼吸と流れるような動き
Q 「ドリーム・タイム」は2015年に初めて挑戦しています。
沖 私にとって初めてのキリアン作品でした。そのとき私は第3キャストだったので振付指導の方にみていただける機会が少なく、実際に舞台で踊れるのか確証がないままリハーサルに参加していました。ただ、その数少ない機会にちゃんとできていたら、舞台で踊らせてもらえるかもしれない! と思い、当時のメンバー5名(岸本夏未、金子仁美、岡崎隼也、吉田蓮)、一致団結してリハーサルをしていました。結果は無事に舞台を踏むことができましたし、2019年のスカラ座の公演でも、5名中4名は同じメンバーで踊ることができました。
Q この作品の特徴はどのようなところにあるのでしょうか。
沖 踊る側としては、呼吸と流れるような動き、と言えるでしょうか。特に出だしは本当に大切です。作品の冒頭、女性3人で呼吸をあわせ、無音の中で踊る場面からはじまります。この無音の時間は結構長いし、広い劇場で、3名の呼吸だけを聞き分けて踊るというのはなかなか他の作品ではないですね(笑)。動きの強弱がはっきりしている作品なので、身体のコアの部分は強く、上半身はやわらかく、という点を意識しながら、流れるように動いていかなければなりません。男性と組む場面も多いので、息をあわせてお互いの力を頼りながら、流れに身を任せることも重要です。
2019年 ミラノ・スカラ座公演より
誰か1人でも欠けたら成立しない作品
Q キリアン作品では「小さな死」も踊っていますが、同じ振付家の作品で違いはありますか。
沖 大きな違いは「小さな死」は裸足で、「ドリーム・タイム」はバレエシューズを履いて踊ることです。床の感じ方も違いますし、「小さな死」の方が踏み込める動きが多い気がします。また、「小さな死」では剣やトルソーといった小道具が出てきます。私の踊ったパートは、男性と剣と3人で踊っているような感覚でした。
「ドリーム・タイム」は友佳理さん(斎藤友佳理/東京バレエ団芸術監督)やエルケ・シェパーズさんに指導していただいていますが(シェパーズ氏は映像で指導)、以前友佳理さんに言われた言葉で「5人のうち、誰か1人でも怪我や体調不良で欠けてしまったら作品が成立しなくなる」と言われたことが強く印象に残っています。代役をたてることが難しく、その意味でも特別な作品です。
キリアン振付「小さな死」 2018年の公演より
Q 音楽は武満徹さんですね。2019年に勅使川原三郎さんの「雲のなごり」でも同じく武満さんの音楽で踊っていますが、音楽についてはどのように感じていますか。
沖 武満さん独特の和音、アクセント、強弱、はどちらの曲にも共通していると思います。「ドリーム・タイム」については、「雲のなごり」よりもメロディのラインがくっきりしている曲なのですが、もしかしたらそれは何度もこのバレエを踊り込み、曲を繰り返し聴いてきたからこそ、メロディを感じ取れるようになったという私自身の経験値にもよるものかもしれません。特に男性2人と踊るパ・ド・トロワの場面では3名で呼吸をあわせることが非常に重要で、リハーサルを重ねる中で振付と音楽が共有できたとき、やっと形になったような手応えを感じました。
Q 初挑戦から6年たちましたが、今回のリハーサルを通して新たに気がついたことはありますか。
沖 言葉で語るのはとても難しいのですが......この作品はどのような解釈もできるんです。例えば女性の想像の世界とも、見方によっては男女の関係とも、人生の流れの移り変わりとも、お客様の数だけ解釈が成立する作品。踊っている私たちにとっても毎回感じるものが違います。明確な言葉にできない、感覚を共有しているとでも言えばよいのでしょうか。みんなで動きを揃えて踊る場面でも、他の作品のように「今日は揃っていた」というものではなく、その時々に感じるリズム、空気感をお互いに感じているように思いますし、毎回新鮮な発見をもたらしてくれる作品です。
「ドリーム・タイム」から学んだことは
Q そんな"新鮮"な作品ですが、沖さんのキャリアにとってはどのような作品だと感じていますか。
沖 2015年に初めて踊ったとき、私はまだ入団5年めで、クラシックとベジャール作品以外はあまり踊ったことがありませんでした。キリアンの作品を2つしか経験していない私が言うのもなんですが、「ドリーム・タイム」をとおしてこれまで知らなかった身体の動きを学べたことはとても大きな財産です。例えば「この動きのときは力を抜こう!」と意識していると、力を抜くという行為に力が入ってしまって、結果かたい動きから脱することができなくなってしまいます。「ドリーム・タイム」を踊ることで素直に力を抜く感覚がつかめたことは他の作品を踊るときにも大いに役立っています。
Q そんな思い入れのある「ドリーム・タイム」。改めて来場を予定されているお客様に作品の魅力を伝えると?
沖 どのバレエでもそうなのですが、劇場でセット、照明、衣裳がそろったとき、初めて作品が完成します。ですが、「ドリーム・タイム」の放つ雰囲気は決っして他にはないもので、独特の美しさを秘め、まるで劇場全体が異空間にかわってしまうような感覚すら受けます。作品の空気感というのは映像ではけして味わえないものですから、皆さまにはぜひ劇場で「かぐや姫」、「中国の不思議な役人」、そして「ドリーム・タイム」、それぞれの世界観を体験していただけたらと思っています。
──前回同様、アリとランケデムの2役を演じます。
池本祥真 そうですね。性格の異なる2つの役をうまく演じ分けたいと考えて取り組んでいました。
アリは、どちらかというとストイックなイメージ。奴隷として主人に仕え、あまり感情を表に出さない、キリっと端正な。それに対して奴隷商人のランケデムは、がらりとイメージを変えて、より軽薄な感じに捉えていました。人によって演じ方は異なると思いますが、軽薄で、ちょっとだらしなくて、ちゃらんぽらんで、お金に対する執着が強くて──。演劇的ではあるけれど、特別に深みのある人物というわけではないけれど、そこに僕なりに深みを持たせられたらという気持ちがありました。主役のコンラッドに対するヒール役というのも楽しく演じることができました。
「海賊」2019年の舞台より。中央の赤いパンツが池本演じるランケデム
──アリ役は東京バレエ団入団以前にも経験しています。
池本 自分なりの表現を追求したいですね。アリといえば、第2幕のパ・ド・トロワが最大の、というか唯一の見せ場です。歴史を遡ると、このアリの踊りはチャブキアーニが男性ダンサーとしての見せ場を作るために加えた、と聞ききます。それだけに、演技というよりもとにかく踊りが大事。なので、これまでやってきた踊りの精度を上げていったり、できなかったことへのチャレンジを盛り込んでいったりしたいと思っています。その点では、前回とはまた違うアリをお見せできたら。
他の場面でのアリは決して出しゃばる存在ではないけれど、でも登場するたびに、コンラッドの奴隷としての存在、その関係性を明確に表すことができたらと思うんです。パ・ド・トロワのアダージオにも絡んでいきますが、そこでもコンラッドとの関係性がわかるように作っていけたらと思います。
2019年、初演時のリハーサルより。
──コンラッド役は前回同様、秋元康臣さんです。
池本 そうなんです、おみさん(秋元康臣)にはよく仕えています(笑)。実は、僕の東京バレエ団デビューは2018年4月の『真夏の夜の夢』のパックでしたが、この時のご主人=オベロンがおみさんでした。
──万全の主従関係が展開されますね(笑)。
池本 そうかと思えば、ランケデム役で出演する日は、メドーラが秋山瑛ちゃん、コンラッドが宮川新大くん、アリが生方隆之介くん、一緒にパ・ド・ドゥを踊るギュルナーラが中川美雪さんと、僕以外全員初役なんです。ビルバントの井福俊太郎くんは2回目ですが、再演ながらかなりフレッシュな組になります。各組とも、演技についてはかなり自由にやらせてもらっているので、それぞれ個性ある舞台になるはずです。もちろん、リハーサルの中で「そこは違う」と修正されるところもあるけれど、基本的には、音を聞いて、気持ちのいいところを出して、他の人と絡んで、というように組み立てています。
──そんな東京バレエ団の『海賊』の魅力は?
池本 東京バレエ団というよりも、キャストごとの個性が光る舞台になることかなって思います。しかもレベルの高いダンサーが揃っている! あ、自分は置いといてですけど(笑)。いま、すごくいいと思うんです。
あとはこのヴァージョンの面白さですね。皆、口を揃えて言っているのではないかと思いますが、小さい頃からABTの舞台映像を見て憧れてきた作品です。それを日本の僕らが上演できるというのは、バレエの歴史の中の一部になれているような気がしますよね。もちろん、オリジナルを踊ることも素晴らしいことだけれど、マラーホフさんが踊った役を僕もできるんだとか、世界中で上演されている名ヴァージョンをここで上演することができるんだと考えると、ダンサー冥利に尽きます。必ず、楽しい舞台になると思います。
2019年、初演時のリハーサルより
──ついにホームズ版『海賊』の再演です。初演の時の手応えはいかがでしたか。
柄本 弾 終始盛り上がる作品ですよね。派手なテクニックが注目されがちですが、他の作品でも常にパ・ド・ドゥを自分の見せ場にもっていくことが多い僕としては、第2幕の「寝室のパ・ド・ドゥ」が自身のいちばんの見せ場ではないかなと思っています。リフトの多い、しっとりとした場面です。
「海賊」第2幕、寝室のパ・ド・ドゥより。メドーラ役は上野水香
──前回は主役のコンラッド役、今回はそれに加えてランケデムも演じます。
柄本 ランケデムは、初演の時からぜひ挑戦したいと思っていた役柄。どの作品においてもより個性の強い役を演じたいという思いが強く、例えば、『くるみ割り人形』のドロッセルマイヤー、『白鳥の湖』のロットバルト、『ジゼル』のヒラリオンなどは、主役ではないけれど、本当に演じがいのある役だと思います。『海賊』の中では、僕はとくにランケデムに憧れていたので、今回はすごく楽しみですね。
──奴隷商人ランケデムはどんなキャラクターと捉えていますか。
柄本 わかりやすい悪者、です。コンラッドの手下として登場するビルバントのほうは、ストーリーが展開する中で「実は悪者だった!?」と判明するわけですが、ランケデムはもっとわかりやすく、最初からコンラッドの敵として登場します。でも、海賊たちが襲ってきたらすぐに負けちゃうという、どこか憎めない要素もある。第2幕以降はほとんど出番がないにもかかわらず、重要なポイントで出てくるキャラクターだけに、ストーリー性を深める重要な役割を担っています。やりがいがありますね。
僕の演技は基本的に「素」です。あまり作り込まず、その場の雰囲気で出していくほうだし、もともと僕は三枚目的なポジションなので、悪者だったり、おちゃらけに片足を突っ込んでいたりするほうが、より「素」で演じることができる。その点でも、ランケデムはナチュラルに入っていけそうです。
──ランケデムの一番の見せ場をあげるとすると?
柄本 奴隷商人として、オダリスクたち、ギュルナーラ、それからメドーラをパシャに売りつける場面です。ここでのランケデムのマイムは、いかにコンラッドをむかつかせるかがポイントになる(笑)。マイムなのでやることは決まっているけれど、より自然に、より説得力のある場面にすることで、全体のドラマがより生き生きとしてくるはずなんです。
「海賊」第1幕より。メドーラを初めてみたパシャはそのあまりの美しさに驚き、腰をぬかしてしまいます。写真はコンラッド(柄本弾)、アリ(宮川新大)、ランケデム(池本祥真)、メドーラ(上野水香)、そしてパシャ(木村和夫)
──コンラッド役では、東京バレエ団のリーダー的存在の柄本さんの姿が重なります。
柄本 海賊たちのリーダーですから、現実の僕のポジションと近いところはあるとは思うけれど、少し、違います。コンラッドは男気がありすぎて(笑)、皆にその背中を見せて突っ走っていくタイプ。僕がそれをやっても、皆との距離はどんどん離れてしまうだけですし、むしろ僕は一緒に進んだり、後ろから押したり、たまには一緒にくだらない話ができる関係でいたいと思っているんです。
──それでは、今回の『海賊』公演の見どころを教えてください。
柄本 僕が出演する2組の日程は、どちらも初演を経験したダンサーが中心ですが、秋山瑛と宮川新大の日だけは主要メンバーがすべて初役というフレッシュなキャストです。きっとフレッシュならではの舞台が期待できると思いますが、僕ら2度目のキャストの日も、前回の舞台で経験したことを活かした、充実の舞台をお届けできるはず。『海賊』はとくに、ダンサーたちが個性を爆発させる作品だと思うので、キャストごとに全く違った舞台が繰り広げられると思います。僕の個性もきっと爆発しますので(笑)、ぜひ、何度も足を運んでいただけたらと思っています。
──2回目のメドーラ役となりますね。
上野水香 実はとてもハードな役柄なんです。舞台に出ているか着替えているかのどちらかで、おまけにバレエダンサーにとって一番難しいテクニックが集結しているような役。いろんな意味できついのですが、なのにすごく楽しかったという記憶が強くあります。こうした作品はどうしても力が入ってしまいがち。ジャンプが多くて大変な踊りだから頑張ろう!と気合いばかりが先走ってしまうものなのですが、今回は、気合いは残しつつもナチュラルに、ちょっとどこか、いい意味で抜けた感じが加わると、もっと伝わりやすくなって、説得力も増すのではないかな、と思っています。
──メドーラという役柄についてはどのような印象を抱いていましたか。
上野 彼女の運命ってすごく厳しいものだけれど、奴隷として生きていく中でも輝いていられる、有り余るほどの魅力と強さがある。時には仲間を守ろうとする姉御肌の面がありますが、でも、それでいっぱいいっぱいになって自分勝手になって、恋人とその友人との関係にヒビを入れてしまっていることには気付いていない(笑)。そういう真っ直ぐなところに共鳴する部分はありますね。ABTの舞台映像に残されているジュリー・ケントさんの表現がとても素敵で、何があってもひたすら笑顔で乗り切る、芯の強い女性を表現したいですね。
──前回のアンナ=マリー・ホームズさんのリハーサルで印象に残ったことは?
上野 この作品は隅から隅まで楽しさにあふれているので、皆が楽しんでくれたらそれが成功につながるんだと言ってくださったことですね。実際、あれだけきつい踊りでも演じていて本当に楽しかったし、だからこそお客さまが喜んでくださったのかなと思いました。テクニック的な点では、私の回転の弱点を指摘してくださって、改善することができた。その時のことは今も身体に残っているので、とてもいい経験になりました。
──ご自身の出番の中で一番の見どころは?
上野 そうですね......。そう、全部です(笑)。作品としての見せ場はやはり、あのパ・ド・トロワから寝室のパ・ド・ドゥへと続いていく第2幕だと思います。そこに山場をもっていくための第1幕、というのもしっかり演じたいし、個人的には第3幕の花園が大好き。女の子なら誰もが憧れる世界ですよね。こういった場面が似合うとよく言われるので、そこはとくに、皆さんに喜んでいただけたらと思っています。
「海賊」第3幕、"花園"の場面。中央は上野水香
──『カルメン』の再演で大きな手応えを感じられたり、〈HOPE JAPAN〉ツアーでは各地で『ボレロ』を踊ったりと、今年も様々な経験を重ねています。
上野 いろいろと経験を重ねたからこそ、いい意味で力が抜けて、無駄が削がれていくように思います。舞台の上で気張りすぎてしまったら、ご覧になっているお客さまも一緒に力が入ってしまったり緊張してしまったりで、心地よく観ることができませんよね。そうではなく、素直にその世界を楽しんでいただけるような舞台をお届けしたい。もちろん、テクニックもしっかり追求したうえで。それはクラシックの作品を踊っていくうえでの今後の課題と思いますし、そう感じることこそキャリアを重ねたということなのかなって思います。そういう意味では、きっと前回よりいい舞台になると思いますし、とにかく楽しくて素敵!という空気感が出すことができればいいですね。
東京バレエ団のダンサーは粒揃いですし、皆、舞台が大好きでバレエが大好きで、すごくひたむきに取り組んでいます。そのひたむきさが作品の魅力をより浮き立たせると思いますし、皆それぞれ技術的にも充実しているので、『海賊』という作品は今の東京バレエ団にぴったりだと思います。
>>>公演の詳細&チケットのご購入はコチラ
※9/26[日]の上野主演日には、長野由紀氏(舞踊評論家)によるプレトーク、さらに終演後には舞台監督の解説のもと、舞台の機構や装置のヒミツをご覧いただける特別企画も!詳しくは>>>
あと1週間ほどで、創立60周年記念シリーズの第二弾、新制作『...
2023年10月20日(金)〜22日(日)、ついに世界初演を...
全幕世界初演までいよいよ2週間を切った「かぐや姫」。10月...
バレエ好きにとっての夏の風物詩。今年も8月21日(月)〜27...
見どころが凝縮され、子どもたちが楽しめるバレエ作品として人気...
7月9日、ハンブルク・バレエ団による、第48回〈ニジンスキー...
7月22日最終公演のカーテンコール オ...
東京バレエ団はオーストラリア・バレエ団の招聘、文化庁文化芸術...
ロマンティック・バレエの名作「...
東京バレエ団が、コロナ禍で中断していた〈Choreograp...