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新着情報2016/10/03

「ザ・カブキ」初演キャストの夏山周久さん、藤堂眞子さんインタビュー


 開幕間近となった『ザ・カブキ』の稽古場に、東京バレエ団特別団員の夏山周久さん、藤堂眞子さんが来訪、リハーサル見学の合間に、短時間ながら団員たちにアドバイスを伝える場面も実現した。初演のおかる役として、また初代由良之助ダンサーとして本作上演史に名を刻む二人に、モーリス・ベジャールの創作や当時の思い出を聞いた。

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──お二人は『ザ・カブキ』以前からベジャール作品を踊られていましたね。


夏山 『ザ・カブキ』の3年前、〈ベジャールの夕〉という公演で僕は『さすらう若者の歌』を踊っているのですが、それが認められて、その後藤堂さんと二人でブリュッセルに呼んでいただき、『詩人の恋』という作品を踊っています。ベジャールさんの振りは難しいですし、短い作品でも、一挙手一投足にちゃんと、"ベジャール・イズム"のようなものがある。簡単にできるところもあるけれど、その簡単なところを簡単にやってしまってはいけないということを、教えてくださる方でした。

藤堂 今日のリハーサルでも、そう感じられるところがありましたね。実は一昨日に誕生日を迎えたのですが、30年経って、この新しい一年が『ザ・カブキ』からスタートすると思うと、感慨深いものがあります。リハーサルに触れて、一瞬ですが、またベジャールさんの創られた世界に入ってしまった感覚になりました。
私が踊ったおかるは、私のわがままなこの性格が合っている役なんだろうなと、勝手に思ったりしていました(笑)。

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夏山 僕は初演の時にすでに30歳を超えていましたから、こうしてピークを過ぎていくんだなと思っていた時に、もう一度チャンスを与えてもらったという感覚がありました。当初は、日本人として由良之助を演じよう、演じようと、その男気を前面に出していたのですが、振付どおり、音楽どおり、形どおりできるようになるまでは、決して先走って出してはいけないと、きつく怒られました。当時は反発心もありましたが(笑)、今思うとありがたいお言葉でした。

──一力茶屋の場面に登場するおかるの艶やかさが印象的ですが、どのように役作りをされたのでしょうか。

藤堂 あそこは苦労しました......。手ぬぐいを持って芝居をする場面があり、玉三郎さんが『娘道成寺』でやっていらっしゃるのですが、これが難しくてできなくて。結局、初演の前に何度か、花柳流の女性の先生のところに習いに行ったのです。 ところが、日舞を習われていないベジャールさんが、そのままやっただけでさまになるのです。日舞だけでなくインド舞踊も、ギリシャも、ベジャールさんのなかにジャンルの壁というものはないのですね。すごいことだなと思いました。

夏山 終盤の「涅槃交響曲」などは、同じようなメロディがずっと繋がっている曲なのに、ベジャールさんからは次々とパが出てくる。もちろん下準備はされているでしょうが、これには驚きました。もう次は困る頃だろうと思っても、またスッと出てくるのですから。

藤堂 心根といいますか、ベジャールさんご自身に、日本のものを海外にもっていく時に中途半端なものは創れない、日本の伝統を崩すようなことはしたくない、という思いがおありだったかと思いますよね。

──夏山さんが初めて由良之助を踊った時の手応えはいかがでしたか。

夏山 あの時の、幕がおりた瞬間を思い出します。バレエをやっていて良かったと思ったものです。
 日本の作品ですから、"『忠臣蔵』は僕たちで創る"という生意気な気持ちがありました。1日目の主演は(ゲストの)エリック・ヴ=アンさんだから良くて当たり前、2日は夏山だから悪くて当たり前、とは思われたくなかったのです。緊張して、最後まで踊りきれるだろうかと思っていたその日──、プロローグで黒子役から刀を渡してもらう場面がありますが、刀を摑もうとしたら、そこに「頑張って」と書いてあった......。バレエ団の皆が応援してくれていた。それが力になった。『ザ・カブキ』は、僕を強くしてくれた作品と言えます。

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藤堂 今でも時々、夢の中に出てくるんですよ。メイクの白塗りがとても難しくて、なかなかできなくて間に合わないのに、もう幕は開いてしまう(笑)。

夏山 僕も時々見ますね。振りなんて忘れているのに、開幕直前に今から舞台で踊れと言われて冷や汗を流す(笑)。

藤堂 私はおかると人生をともにした、という思いがありますね。他の作品もいろいろ踊ってきましたが、あれほど、役柄の人生に巻き込まれたものは他にありません。そこまで、ベジャールさんの作品の世界に入り込んでしまった。今でもおかるは、分身のように懐かしいし、出会わせてくださったベジャールさん、佐々木(忠次)さんに感謝したいですね。

 二人は『ザ・カブキ』公演初日の10月13に日に開催される〈メモリアル・ガラ〉トークショー「『ザ・カブキ』と佐々木忠次」に出演する予定となっている。


 ●取材・文 加藤智子

公演情報2016/09/26

今年の秋は「忠臣蔵」ざんまい!

 今年の秋から冬にかけて、バレエ、歌舞伎、文楽とさまざまな「忠臣蔵」をお楽しみいただけます。

 モーリス・ベジャールが東京バレエ団のために振付けた「ザ・カブキ」は1986年の初演から30年。今年5月に亡くなった東京バレエ団創設者であり、ベジャールとの旧交も厚かった佐々木忠次の追悼公演として、10月13日~16日に新国立劇場で上演いたします。
「ザ・カブキ」が歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」をもとに創作されたことはよく知られていること。ベジャールは「仮名手本忠臣蔵」をつぶさに探求し、十一段におよぶ長大な物語を、約2時間のバレエにまとめたのです。現代の青年がひとふりの刀を手にした瞬間タイムスリップして由良之助となるという設定を新たに設け、歌舞伎でも描かれている"兜改め"、"山崎街道"や"一力茶屋"といった名場面を盛り込みつつ、ベジャールは作曲家の黛敏郎とともに、このバレエの傑作を創りあげました。なかでも、四十七士が討ち入りを果たすラストシーンは、迫力満点。バレエならではの名シーンです。

 国立劇場では開場50周年を記念して、歌舞伎「仮名手本中心蔵」の3ヵ月連続完全通し上演が行われることになりました(10月~12月/国立劇場)。通常は取り上げられることの少ない場面も上演されるとのこと。華やかな顔ぶれで、3ヵ月間にわたり、「これぞ、忠臣蔵!」という舞台をご覧いただけるはずです。
 そして、12月には歌舞伎のもととなった、文楽公演「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」も上演されます(12月/国立小劇場)。

 
 ベジャール振付の「ザ・カブキ」だけでなく、そのもととなった歌舞伎や文楽の「仮名手本忠臣蔵」を併せてご覧いただき、「忠臣蔵」の世界を楽しまれてはいかがでしょうか。


◎「ザ・カブキ」公演情報はこちら>>>

レポート2016/09/17

あいちトリエンナーレ2016プロデュースオペラ「魔笛」レポート

 東京バレエ団が出演する、あいちトリエンナーレ2016、ガエタノ・デスピノーサ指揮、勅使川原三郎演出、名古屋フィルハーモニー交響楽団の演奏によるプロデュースオペラ「魔笛」が愛知県芸術劇場 大ホールで開幕しました。
 
 黒いメッシュの衣裳をつけた16人の東京バレエ団の選抜メンバーたちは、KARASの佐藤利穂子氏とともに場面の空気や登場人物たちの深層心理を表現。4月からおこなれた勅使川原氏とのワークショップを通して身につけていった独特の身体表現を駆使して、生き生きと演じました。

s魔笛028_photo_Sakae Oguma.jpg魔笛361.jpg★魔笛1324.jpg舞台写真撮影:小熊栄


sIMG_9083.jpg(写真)初日の終演後、勅使川原三郎氏、KARASの佐東利穂子氏と。

公演は9月17日(土)、9月19日(月・祝)。愛知県芸術劇場 大ホール
公演の詳細>>
勅使川原三郎氏インタビュー>>



レポート2016/09/16

「ザ・カブキ」 二代目 花柳壽應さん インタビュー

 10月に東京バレエ団が上演するモーリス・ベジャールの『ザ・カブキ』は今年で初演30周年。東京バレエ団の佐々木忠次代表との縁でベジャールのアドバイザーとして創作に参加した花柳壽應(当時、花柳芳次郎)さんに、創作時の稽古やベジャールさんとの思い出をうかがいました。


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──ベジャールさんとその作品については、当時どのような印象を持たれていたのですか。

「実は、ベジャールさんのバレエが大好きで、日本公演にはいつも行っていました。『春の祭典』や『ロミオとジュリエット』などを観て、これは今までのバレエとは全く違うものだと感じていたのです。そのベジャールさんの仕事を手伝うことができるなんて考えてもいなかったから、すぐにOKしましたよ。私もそんなに暇ではなかったけれど、何もかも振り捨てて(笑)」



──ベジャールさんからは、具体的にどのような要望が?

「それが、その時点では佐々木さんも何もわからない、とにかく来てくれと(笑)。実際に稽古場に行くと、ベジャールさんは頭の中にやることができあがっているのだけれど、その時その時によっていろいろと思いつくわけなんです。たとえば、"ここは日本舞踊ではどう表現するんだ"、と。私がその場でそれをやって形にします。そうすると、ベジャールさんはそれをそのまま使うのではなく、 "ベジャール流"に翻案していくのです」



──ベジャールさんは、歌舞伎、日本舞踊のこともよくご存知だったそうですね。

「たとえば『娘道成寺』という有名な古典の舞踊がありますが、"その中の、このパートの、ここのところを踊ってみてくれ"と、わりと具体的におっしゃる。それが、ご自分の頭の中に全部入っている。私が踊ってみせると、ベジャールさんはベジャール流になおして振付けるのです。
 おかるの振りもそうでした。『娘道成寺』の中の踊りを、ベジャールさんは、おかるにやらせる。その発想が、面白いですね。
『娘道成寺』には毬唄の場面がありますが、それは『ザ・カブキ』の第五場の侍女たちの踊りに取り入れられてもいます」

取材・文 加藤智子(ライター)


※花柳壽應氏のインタビューは「ザ・カブキ」の公演プログラムに詳しい内容を掲載します。また、花柳氏は10月13日<メモリアル・ガラ>のトークショーにもご出演いただきます。

レポート2016/09/08

オペラ『魔笛』演出家・勅使川原三郎氏インタビュー
 

  あいちトリエンナーレの2016プロデュースオペラとして上演される、勅使川原三郎演出によるオペラ『魔笛』に、東京バレエ団のダンサーたちが出演、4月から断続的にワークショップ、稽古が行われている。本番を約半月後に控えたバレエ団のスタジオで、リハーサル中の勅使川原氏に話を聞いた。
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 ダンサー、振付家、また演出家として様々な作品を手がけてきた勅使川原氏だが、オペラ演出については、「オペラを、"すでにあるもの"として考えず、いまなぜこのオペラを演出、再創作するのかということをきちっと捉えながらやろうと思っています」と話す。そこで重要な役割を果たすのが、東京バレエ団のダンサーたちだという。
「大事にしたいことは、これは"動くオペラ"であるということ。身体が動くのはもちろんですが、実はオブジェも、動きます。舞台には直径8メートルから80センチの大中小のメタリックなリング=円が配され、いろんな動きをする。その中で、ダンサーたちの動きが、とても重要なものとなるのです」

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 自ら主宰するカンパニー、KARASをはじめ、世界各地のダンサーたちと創作を続けてきた勅使川原氏だが、東京バレエ団のメンバーとは、今回が初顔合わせだ。
「彼らには可能性を感じています。これから、潜んでいるものがもっと出てくるだろうとも感じました。大事なことは、この限られた稽古期間に何ができるかということ。最終的に舞台に出たときに、とても活き活きしたものが生まれる、そういう出会いであると思っています」

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 稽古中は、「男性の周りを、沿うように歩いて」「ここから、溶ける」と、独特の指示がとぶ。演出助手でダンサーの佐東利穂子氏が、フォーメーションの調整のためにせわしく動きまわるなか、きっかけを見極めようと、音楽に集中するダンサーたち。カウントをとり、振りを確認したくなるような場面も、より正確な動きを引き出すべく、勅使川原氏は様々な要求を出し続ける。
「ダンス、身体というものは、もともとズレるもの。カウントを一番に信用しないで、身体の動きとして重心がどうであるべきか、身体の機能がどうであるか、ということを正確に知覚することのほうが、大事なのです」

装置にリング=円を多用するという舞台、いったいどのような世界が立ち現れるのだろう。
「円はある種、絶対的なものであり、宇宙的なもの、絶対を想定した造形といえるでしょう。『魔笛』というオペラは、絶対的な太陽神を信じる思想と、暗闇、人間の影の部分を強調するものたちの対立が示されます。しかし人間は、絶対を信じたとしても、絶対的なものにはなり得ない。ダンサーが僕にとって必要だと思った理由は、まさにそこです。音楽の中にも、動きの中にも収まりきらない何かがある。人間はどうしようもなく不完全なものである、ということが基にあるのです。この作品は、これから、より面白いものになっていくと思います」
 勅使川原三郎演出による『魔笛』は、9月17日(土)、19日(月・祝)、愛知県芸術劇場大ホールにて上演される。

取材・文 加藤智子(ライター)

photo:Arnold Groeschel

レポート2016/08/25

初演30年記念 「ザ・カブキ」創作の舞台裏――世界初演に携った制作スタッフ座談会より③

「ザ・カブキ」の海外公演から、一流オペラハウスへの客演が始まった。

市川 これはもう、東京バレエ団最高の古典作品と言ってもいいんじゃないでしょうか。約30年間、全然古びることなく、「今出来上がったばかり」のような新鮮さで観ることができる。『忠臣蔵』という話に目をつけたベジャールさんは凄いですね。
立川 我々の中に『仮名手本忠臣蔵』の劇的な世界を、ごく普通に受け入れられるメンタリティが残っていたんだと思います。逆に、「お前たち、いまだにこうだろう?」と言われている気がしました。東京バレエ団にとっても、私個人にとっても大事な作品です。市川さんもですが、初演のときからずっと、1回も欠かさず現場に立ちあってきましたから。
東京バレエ団はそれまでにも海外公演をしていたけれど、大きなオペラハウスでやるのは、初めて『ザ・カブキ』をもっていった86年の海外ツアーが最初。当時はオペラハウスのどこをつつけばどう動くかというのを知らなくて、あれもダメ、これもダメ、そんな話は聞いていないということがたくさんあって、外国のオペラハウスで仕事をするということはこういうことなんだ、と思いましたね。

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photo: Sébastien Mathé

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photo: Brescia-Amisano/Teatro alla Scala

高沢 機材はどんどん新しくなってきている。照明については、これまでも少しずつ変えてきているけれど、今後新しくすべきところは新しくしていったほうがいいのではないかと思いますね。振りは変わらないけれど、ダンサーが変わっていく以上、作品は変化していくもの。
立川 こういった作品を再演する際には、ダンサーもスタッフも、つねに原典にあたることが大切ですね。歌舞伎で観る、浄瑠璃台本を読む──。ベジャールさんが読み解くように広く、深くというわけにはいきませんが、自分の中で、「ザ・カブキ」をしっかり位置づけ、納得してから現場にいく。そこがとても重要だと思います。
高沢 この仕事に入る前に、歌舞伎座で『仮名手本忠臣蔵』の通しを観に行ったね。昼と夜、通して観たな。
市川 ダンサーたちにも歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』は観てもらいたいですね。「ザ・カブキ」は、ベジャールさん、黛さんという、もう二度と現れないであろう天才たちが、物凄く一所懸命に工夫して結晶させた。これは東京バレエ団の大変な財産です。僕はこの作品で初めてバレエの仕事をして、本や振付を通じてベジャールさんからたくさんのことを教わりました。ベジャールさん、黛さんについては、まだまだ勉強していかなければと思います。

高沢立生:1970年に東京バレエ団の第2次海外公演に照明スタッフとして随行した後、NBSの招聘する外国のオペラ、バレエ公演のほとんどに携わっている。
市川文武:1986年「ザ・カブキ」以降、東京バレエ団等、舞台芸術の音響も担当し、現在に至る。
立川好治:1977年「エチュード」の初演から東京バレエ団のスタッフとして参加。現在まで東京バレエ団技術監督を務める。

2013年「ザ・カブキ」公演プログラム掲載記事抜粋再録

取材・文:加藤智子(フリーライター)

レポート2016/08/25

初演30年記念 「ザ・カブキ」創作の舞台裏――世界初演に携った制作スタッフ座談会より②

振付の速さ、次々と出てくるアイディア、驚くべき仕事――。

高沢 ベジャールさんの振付はすごく速かったね。湯水のように出てくるし、変えるとなったらすぐ変えちゃう。衣裳もヌーノ・コルテ=レアルのデザイン画がありましたが、使ったり使わなかったりで、どんどん変えちゃう。
立川 稽古場で「こういうものが必要」と言われるのだけれど、それをどう使うのか、我々にはわからない(笑)。例えば、「ジャパニーズ・アルファベットを書いた幕が要る」、「振り被せて振り落とす薄い幕が要る。それには血を描け」という。が、それをどこでどんなふうにお使いになるのか、稽古場ではわからないんですよ。それでデザインを持っていくと、「こうではない」。いろはの幕の文字の書体、太さ、配置には凄く細かいダメ出しをされました。いろは四十七字は、普通七文字刻みにし、一番下を「とがなくてしす(咎なくて死す)」と読ませますが、ここでは6文字刻みに組んでいる。すると、最後に一文字分の空白ができる。ベジャールさんは、わざとこうしたんだと思うのです。最後に空白を作って、「お前たちはあそこに何を書くのか」と言いたいのではないかと。劇場に入って初めて出てきたアイディアもありました。最後の「涅槃」のところは、ダンサーたちが一旦引っ込んで着替えますが、ベジャールさんにはその間がどうしても我慢ならない。そこで、繋ぎとして塩冶の亡霊を出し、師直の首を持ってくることになった。やってみると実に音楽的にはまるし、意味的にもはまる。驚くべき仕事だったと思います。

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photo: Kiyonori Hasegawa

高沢 そういったことがたくさんあったね。例えば幕開きの現代の場面。
立川 当初は普通の現代の若者ふうにジーパンをはいたり、バラバラの衣裳でした。
高沢 それが、舞台稽古の段階で白の衣裳に統一することに。あの場面は、舞台の"額縁"を「テレビで埋めてほしい」とも言われていました。それは実現せず、今の形になりましたけど、ベジャールさんには、秋葉原の、テレビがたくさん並んだ風景が現代の日本の粋のように感じられたのではないかな。照明は、「もっと白く、白く」と言われた。白は、ベジャールさんにはとても現代的に思える色なのかもしれない。プロローグは白、義太夫の部分は(影を作らずに全体をまんべんなく照らす)"歌舞伎明かり"、そこからどんどんドラマティックになると、あるいはバレエの明かりになり、というのが基本で、あとはほとんど任せてくださいました。ただ、「最後にソレイユを、太陽を出してくれ」とだけは言われていた。切腹の場面は太陽だと。日の丸にも見えますね。ベジャールさんは振付をものすごく大事にされるので、ちょっとでも暗いと、「もっと明るくしてくれ」。あの鋭い眼光で、すべてを見抜こうとするような目で稽古を見ていらしたのが印象的でした。
市川 本当は、「山科閑居」(歌舞伎では九段目)も入るはずだったんです。振付の途中でベジャールさんは、「やっぱりこうしたい」とやめてしまい、かわりに外伝の「南部坂雪の別れ」が入った。「山崎街道」も本当は義太夫とオーケストラでいく予定でしたが、「ここは下座音楽でいきたい」と。で、「山崎街道」のための音楽が余っちゃったから、急遽それを討ち入りの場面のヴァリエーションに使ったんです。でも、全然不自然ではないでしょう?
立川 衣裳も、装置も、音楽も、基本的にはすべてベジャールさんのアイディアと言えますね。
※その③に続く。

高沢立生:1970年に東京バレエ団の第2次海外公演に照明スタッフとして随行した後、NBSの招聘する外国のオペラ、バレエ公演のほとんどに携わっている。
市川文武:1986年「ザ・カブキ」以降、東京バレエ団等、舞台芸術の音響も担当し、現在に至る。
立川好治:1977年「エチュード」の初演から東京バレエ団のスタッフとして参加。現在まで東京バレエ団技術監督を務める。

2013年「ザ・カブキ」公演プログラム掲載記事抜粋再録

取材・文:加藤智子(フリーライター)


レポート2016/08/25

初演30年記念 「ザ・カブキ」創作の舞台裏――世界初演に携った制作スタッフ座談会より①

今年で初演30周年を迎える「ザ・カブキ」は、モーリス・ベジャールと黛敏郎のコラボレーションによって生まれ、東京バレエ団が世界の舞台で踊り続けてきた名作です。世界初演から本作に携わってきた照明の高沢立生、音響の市川文武、技術監督の立川好治の3人による座談会(2013年公演のプログラム掲載)を3回にわたって抜粋再録いたします。

「"忠臣蔵"をやりたい、作曲は黛敏郎に」と言ったベジャール。

──1986年4月の「ザ・カブキ」世界初演の際、高沢さん、市川さん、立川さんはともにベジャールさんの創作の現場に立ちあわれ、その後も国内外の公演でスタッフを務められてきました。今回は、スタッフの皆さんがベジャールさんとどのようにお仕事をされ、この作品を創り上げていかれたのか、お話をうかがいたく思います。

立川 私はまだ駆け出しというか、当時舞台監督を務めていた増田啓路のアシスタントをしていたのですが、当初は、日本人の心に極めて深く根ざしている忠臣蔵の世界を、西洋の人がどこまで理解できるのだろう、という雰囲気があったように思います。
高沢 ベジャールさんに振付をお願いしていると聞いたのは、初演の2、3年前だったかと。
市川 83年の秋でした。
高沢 84年が東京バレエ団の創立20周年。そこで上演する作品をベジャールさんにお願いしていたのでしたね。
市川 83年の秋に、やっとOKを出したベジャールさんが「『仮名手本忠臣蔵』をやりたい、作曲は黛敏郎に頼みたい」と言われた。ベジャールさんは三島由紀夫が好きで、三島原作の黛さんのオペラ『金閣寺』を聴いていたのです。(東京バレエ団代表・故)佐々木(忠次)さんは喜んですぐ黛さんに電話をかけてきた。ちょうどその時、僕は黛さんとスタジオで中島貞男監督の「序の舞」という映画の音楽を録音している最中でした。黛さんに聞いたら、「ベジャールのバレエの作曲をしてほしい」という電話だったという。「"忠臣蔵"をバレエにするんだってさ」と。ええっ? 歌舞伎ならほかにもあるのに、よりによって男ばっかりの「忠臣蔵」かと(笑)。それが発端でした。

──そこから、黛さんは作曲を始められた。
市川 まずは黛さんと佐々木さんとで、パリのアパートにベジャールさんを訪ねた。そこでベジャールさんは「全体の構成は任せる。好きなように書いてくれ」と言われた。黛さんは、各段の冒頭を義太夫で導入し、オーケストラにつないでゆくという構成でプロットを創り、ピアノ譜にして、ベジャールさんと確認しました。全十一段の浄瑠璃台本を、原稿用紙一枚にも満たない程に短く抜粋し、物語をまとめた黛さんの構成力はさすがです。義太夫節は、三味線に当時若手ナンバーワンと評され、しかも越路大夫は、の三味線を勤めていた、現在、人間国宝の鶴澤清治さんと、義太夫は(五代目)豊竹呂太夫さんにお願いしました。

──それが、85年の秋だったのですね。
市川 まずは義太夫を録音、その後オーケストラを録音しました。オケの録音にはベジャールさんも立ちあわれました。それをトラックダウンしてベジャールさんにお渡ししたのが12月の暮れ。
高沢 ベジャールさんは元日が誕生日で。
市川 誕生日会をやりましたねえ。
高沢 で、1月にリハーサルして、その後一度帰国されて、3月にまた来日された。
市川 ぜひ知っていただきたいことは、ベジャールさんは"外国人なのに日本の事を良く知っている"というレベルではない、ということです。例えば「禅」。ベジャールさんはヨーロッパに禅を広めた名僧、弟子丸泰仙師の高弟で、師とともに座禅の指導をしていたほどです。三島由紀夫もフランス語に翻訳されていた作品は全て読んでいた。その三島が「葉隠」(武士道を論じた、江戸時代中期の書物。佐賀藩士山本常朝の談話を筆録したもの)を座右の書としていたことを知り、ベジャールさんも読んでいました。「ザ・カブキ」のフィナーレが、なぜ切腹で終わったのかは「葉隠」にヒントがあると思います。赤穂浪士が仇討したのはいいが、遅すぎる。それはさておき、なぜ吉良の首をとった後すぐ泉岳寺で切腹しなかったのか。そう「葉隠」に書いてあります。当初の構成では、雑駁な現代の街からタイムスリップした青年が忠臣蔵の世界に入り、討ち入りを果たし、またに現代に戻るという構成になっていました。おそらくベジャールさんは振付をはじめてから「葉隠」を思い出し、切腹で終えることに変更した。ところが、切腹するような音楽は書いていない! ベジャールさんは黛さんのレコードをたくさん聴いて、「涅槃交響曲」が「ぴったりだ!」と気に入り、使わせてくれるよう黛さんに強引に頼んだということなんです。
※その②に続く。

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photo: Ryu Yoshizawa

高沢立生:1970年に東京バレエ団の第2次海外公演に照明スタッフとして随行した後、NBSの招聘する外国のオペラ、バレエ公演のほとんどに携わっている。
市川文武:1986年「ザ・カブキ」以降、東京バレエ団等、舞台芸術の音響も担当し、現在に至る。
立川好治:1977年「エチュード」の初演から東京バレエ団のスタッフとして参加。現在まで東京バレエ団技術監督を務める。

2013年「ザ・カブキ」公演プログラム掲載記事抜粋再録

取材・文:加藤智子(フリーライター)

レポート2016/05/23

上野水香、台北のインターナショナルバレエスターガラレポート

 既報の通り、プリンシパルの上野水香が、5月20日、21日に台北で行われた「第9回インターナショナルバレエスターガラ」に出演しました。

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 会場は台北市にある国立劇場。写真の通り、外観は中国風の構えをしていますが、内側は本格的な西欧式のオペラハウス。この台北随一の劇場で、マリインスキー・バレエ団のイーゴリ・コルプと「バラの精」を、そしてアロンソ版「カルメン」のソロを2日間にわたって踊り、好評を得ました。

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 上野は参加した印象を、「台北の観客の方々はとても温かくて踊っていて気持ちがよかったです。このガラへの出演は二度目ですが、6年前のときより会場が盛り上がっていたように感じます。一緒に出演したフリーデマン・フォーゲルやドロテ・ジルベールも、とても受けていました。台湾にはバレエ・カンパニーがないと聞いていますが、このような催しが定期的に開催されて、バレエを見る方々が増えているのでしょうね」と語っていました。
 

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レポート2016/04/21

「ラ・シルフィード」公開リハーサル&記者懇親会レポート

 4月19日、目黒の東京バレエ団のスタジオで、今月末に公演を控えた『ラ・シルフィード』の公開リハーサル及び記者懇親会を実施いたしました。ライターの小田島久恵さんによるレポートをお届けします。


 4月末の公演に向けて行われた東京バレエ団の『ラ・シルフィード』の通し稽古を目黒のスタジオで見学した。1幕を踊ったのは4/29のペア、渡辺理恵と宮川新大。4月にプリンシパルに昇格した渡辺は、2月のブルメイステル版『白鳥の湖』のオデット/オディールを成功させたばかりだが、シルフィード特有のクラシカルな肩のラインがとても美しく、稽古場であることを忘れさせるような瞑想的な表情を見せた。生きた女性ではない空気に漂う妖精、というシルフィードという役の設定は役作りとして大変抽象的で難しいはずだが、現実世界に薄い被膜を張って優美な幻影で恋人を魅了する渡辺の演技は、とてもチャーミングだった。ジェイムズを踊る宮川新大は、2015年8月入団のソリストで、ブルメイステル版『白鳥の湖』では、パ・ド・カトルの端正な演技が印象的だったダンサー。ジェイムズの若々しい跳躍や鮮やかなバットマン、高速のアントルシャを正確にこなし、婚約者エフィー(29日・吉川留衣)との明るいパ・ド・ドゥも表情豊かだった。ラコット版で印象的な、現世でのカップル~ジェイムズとエフィー~とシルフィードとのパ・ド・トロワは見事なバランスで、3人による絵画のような静止ポーズにロマンティック・バレエの極致の美を見る想いだった。
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 2幕では30日の主役・沖香菜子と松野乃知が登場。小悪魔的な沖のシルフィードは、快活でロマンティックな松野のジェイムズと相性がよく、魔法のベールのシーンも真に迫っていた。松野は3年ぶり2度目のジェイムズだが、目で追っているだけで多くの楽しみを与えてくれるオーラがあり、現世を捨てて妖精の世界に迷い込んだ青年の無鉄砲さを生き生きと表し、跳躍にも思い切りが感じられた。沖のシルフィードの軽やかさと蠱惑的な表情も素晴らしい。儚げで可愛らしく、知的な個性も備わっている。新鮮なシルフィードであった。
 稽古場では、芸術監督の斎藤友佳理からコール・ド・バレエへの細かい指示が飛び、「呼吸が止まらないように」というアドバイスが頻繁に伝えられた。ソリストには、「5番のポジションをつねに忘れないように」というアドバイス。モスクワ音楽劇場でピエール・ラコットのアシスタントを務め、ギレーヌ・テスマーからも直々の指導を得た斎藤は、この演目の本質を深く知り抜いており、現役時代にも完璧なシルフィードを演じていた。具体的で愛情深い指導でバレエ団の挑戦を完成へと近づけていた。

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 その後行われた記者懇親会では、斎藤芸術監督とメインの4人のダンサーが質疑応答に答えた。キャスト一人一人に励ましの言葉を向け「ロマンティック・バレエの原点であるこの作品で本当に大切なことは、『香り』を伝えること」と語る斎藤。
「同じ基本のポーズではじまって、息果てるシーンも同じポーズで終わるバレエです。その間にずっとジェイズへの想いがある...それを軸に表現を深めていきたいです」(渡辺)「毎日が勉強の連続です。物語を通して一人の主人公を作り上げる『幕もの』の魅力にとりつかれ、毎日友佳理さんと相談しながら経験を積んでいます」(宮川)「この3年間に色々な作品を、色々な先生からの指導を受けて踊ることが出来ました。それを今回のシルフィードで生かしていきたいです」(沖)「今の僕が出来るジェイムズとして舞台を生きていけたらいいと思います。3年前の自分をビデオで見ると、今のほうが成長しているかもと思う反面、今にはない若さも感じます」(松野)
 完成間近の東京バレエ団の『ラ・シルフィード』は4月29日と30日に公演が行われる。
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(撮影:引地信彦)

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<ウィンター・ガラ>「イン・ザ・ナイト」キャスト決定

2月22日(水)、23日(木)に上演する、東京バレエ団<ウィ...

『イン・ザ・ナイト』振付指導ベン・ヒューズ インタビュー

 東京バレエ団が、満を持して、新たなレパートリーに挑戦する。...

「孤独な祝祭 佐々木忠次」 西日本新聞書評

西日本新聞(2017年1月22日)読書館に掲載された、評論...

(1/3[火])更新 東京バレエ団ダンサーからの年賀状2017

新年明けましておめでとうございます!! 2016年は東京バレ...

イベントレポート~クリスマス・パーティー~

去る12月17日(土)、「くるみ割り人形」終演後の会場におい...

「孤独な祝祭 佐々木忠次」週刊オン★ステージ新聞書評

週刊オン★ステージ新聞 (2017年1月6日付号)に掲載され...

海外公演<第九交響曲>のリハーサルが行われました

 2017年1月6日から、東京バレエ団はモーリス・ベジャー...

イベントレポート~「ザ・カブキ」 泉岳寺 墓参

「ザ・カブキ」のリハーサルがつづく忙しい日々。そんななか、...

新入団員、ブラウリオ・アルバレス インタビュー

バレエと日本文化をこよなく愛するメキシコ人、 ブラウリオ・...

イベントレポート~「ザ・カブキ」討ち入り体験会~

2016年10月2日(日)、東京バレエ団のスタジオで新たな伝...