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レポート2016/08/25

初演30年記念 「ザ・カブキ」創作の舞台裏――世界初演に携った制作スタッフ座談会より②
振付の速さ、次々と出てくるアイディア、驚くべき仕事――。 高沢 ベジャールさんの振付はすごく速かったね。湯水のように出てくるし、変えるとなったらすぐ変えちゃう。衣裳もヌーノ・コルテ=レアルのデザイン画がありましたが、使ったり使わなかったりで、どんどん変えちゃう。 立川 稽古場で「こういうものが必要」と言われるのだけれど、それをどう使うのか、我々にはわからない(笑)。例えば、「ジャパニーズ・アルファベットを書いた幕が要る」、「振り被せて振り落とす薄い幕が要る。それには血を描け」という。が、それをどこでどんなふうにお使いになるのか、稽古場ではわからないんですよ。それでデザインを持っていくと、「こうではない」。いろはの幕の文字の書体、太さ、配置には凄く細かいダメ出しをされました。いろは四十七字は、普通七文字刻みにし、一番下を「とがなくてしす(咎なくて死す)」と読ませますが、ここでは6文字刻みに組んでいる。すると、最後に一文字分の空白ができる。ベジャールさんは、わざとこうしたんだと思うのです。最後に空白を作って、「お前たちはあそこに何を書くのか」と言いたいのではないかと。劇場に入って初めて出てきたアイディアもありました。最後の「涅槃」のところは、ダンサーたちが一旦引っ込んで着替えますが、ベジャールさんにはその間がどうしても我慢ならない。そこで、繋ぎとして塩冶の亡霊を出し、師直の首を持ってくることになった。やってみると実に音楽的にはまるし、意味的にもはまる。驚くべき仕事だったと思います。 0332.jpg photo: Kiyonori Hasegawa 高沢 そういったことがたくさんあったね。例えば幕開きの現代の場面。 立川 当初は普通の現代の若者ふうにジーパンをはいたり、バラバラの衣裳でした。 高沢 それが、舞台稽古の段階で白の衣裳に統一することに。あの場面は、舞台の"額縁"を「テレビで埋めてほしい」とも言われていました。それは実現せず、今の形になりましたけど、ベジャールさんには、秋葉原の、テレビがたくさん並んだ風景が現代の日本の粋のように感じられたのではないかな。照明は、「もっと白く、白く」と言われた。白は、ベジャールさんにはとても現代的に思える色なのかもしれない。プロローグは白、義太夫の部分は(影を作らずに全体をまんべんなく照らす)"歌舞伎明かり"、そこからどんどんドラマティックになると、あるいはバレエの明かりになり、というのが基本で、あとはほとんど任せてくださいました。ただ、「最後にソレイユを、太陽を出してくれ」とだけは言われていた。切腹の場面は太陽だと。日の丸にも見えますね。ベジャールさんは振付をものすごく大事にされるので、ちょっとでも暗いと、「もっと明るくしてくれ」。あの鋭い眼光で、すべてを見抜こうとするような目で稽古を見ていらしたのが印象的でした。 市川 本当は、「山科閑居」(歌舞伎では九段目)も入るはずだったんです。振付の途中でベジャールさんは、「やっぱりこうしたい」とやめてしまい、かわりに外伝の「南部坂雪の別れ」が入った。「山崎街道」も本当は義太夫とオーケストラでいく予定でしたが、「ここは下座音楽でいきたい」と。で、「山崎街道」のための音楽が余っちゃったから、急遽それを討ち入りの場面のヴァリエーションに使ったんです。でも、全然不自然ではないでしょう? 立川 衣裳も、装置も、音楽も、基本的にはすべてベジャールさんのアイディアと言えますね。 ※その③に続く。 高沢立生:1970年に東京バレエ団の第2次海外公演に照明スタッフとして随行した後、NBSの招聘する外国のオペラ、バレエ公演のほとんどに携わっている。 市川文武:1986年「ザ・カブキ」以降、東京バレエ団等、舞台芸術の音響も担当し、現在に至る。 立川好治:1977年「エチュード」の初演から東京バレエ団のスタッフとして参加。現在まで東京バレエ団技術監督を務める。 2013年「ザ・カブキ」公演プログラム掲載記事抜粋再録 取材・文:加藤智子(フリーライター)

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