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ロングインタビュー2015/10/20

【ダンサー・ロングインタビュー】 第4回-沖香菜子


取材/文:新藤弘子(舞踊評論家)


*バレエと出会った頃のことを教えてください。

 母が若い頃バレエに興味を持っていて、女の子が生まれたら習わせようと思っていたみたいです。父は最初は全くバレエに興味がなかったけれど、発表会で踊る私を観てから応援してくれるようになりました。母はもともと身体が柔らかいほうですが、父と兄はすごく固くて! 母に似てよかったなと思います。
 ボリショイ・バレエ学校には18歳で留学しました。通っていたのがロシア系統のバレエ教室だったので、先生方もロシアとの繋がりが深く、留学するならロシアに行きたいと思っていたんです。高校生の頃来日したマリインスキー・バレエ団のサラファーノフやロパートキナのリハーサルを間近に見せてもらう機会が有りました。ロパートキナはとっても素晴らしいバレリーナです。でも、バレエ学校に入る時から選び抜かれているロシアのダンサーの中では、決して身体条件はよくなかったそうです。それを欠点に見せない身体の使い方、脚の使い方。私とは次元が違いますけど、自分もそれを目指していけたらと思いました。


*留学してみてどうでしたか?

15-10.20oki_01.jpg それまで自分の中では精一杯脚が開くように努力していたけれども、それでも全く開いていないんだ、と思い知らされました。小さい頃からの積み重ねもあるでしょうが、身体の作りがここまで違うんだというのが衝撃でした。克服しようとしても、生まれ持ったものが違う! 鏡を見るのがいやだと思ったこともありますが、踊ることが好きだから、バレエ中心の毎日が楽しくて。留学した当初、ロシア語はほとんどしゃべれなかったけど、クラスメイトは私の拙いロシア語とボディランゲージを理解してくれたので、そんなに苦労した記憶はありません。泣き虫なんですけどポジティブシンキングで、すぐ立ち直るんです(笑)。


*留学期間中に東京バレエ団のオーディションを受けたのですね。

 ロシアのバレエ団に入ることも頭にありましたが、やっぱり日本で踊りたい、それなら東京バレエ団だと思っていました。当時はオーディションの年令制限が20歳で、私は19歳。いま受けなければと思ってオーディションを受けたら、合格をいただけたので留学を切り上げて入団しました。その頃は団員の数も多くて、アンダーにもなかなか入れない。どんな役でも舞台に立ちたい一心で、毎日一生懸命レッスンしていました。初舞台はベジャールさんの『ダンス・イン・ザ・ミラー』で、団員みんなで演じるエキストラのような役。2年目の『ラ・バヤデール』で初めてクラシックのコール・ドに入れていただきました。東京バレエ団のコール・ドってすごく揃っていて、揃え方にもすごく細かい工夫があって、それを全て頭に入れるのが大変!!先輩方には迷惑をかけっぱなしでした。本番よりも毎回リハーサルのほうが緊張していましたね。


*入団して、印象的な出会いはありましたか?

 バレエ団の先生方もですが、子供の頃にビデオでしか見たことのないような人たちが実際に教えてくださるのがすごいなと。ノイマイヤーさん、ワシーリエフさんのような、偉大な振付家の方にその作品を直接教えていただけるのは本当に光栄だと思うし、たくさんのことを学びたい。自分をスポンジのように柔らかくして吸収しなくちゃ、という思いです。

 
*特に好きな作品、難しかった作品などがあれば教えてください。

 いちばん印象に残っているのは『ロミオとジュリエット』! 主役だけじゃなく全員が初めて踊る作品で、しかもリハーサル期間が1ヶ月しかなかったのですが、実はジュリエット役の練習中に肋骨を傷めてしまって。痛いなと思いながら何日か続けていたら、先生が「もしかして痛いの?」と。病院で骨折してるとわかり、先生にも無理をせず休みなさいと言われたのですが、休んでいたら間に合わないし、「絶対やりたい、やらせてください」とお願いしてケヴィン(・ヘイゲン)先生に許していただきました。病院の先生も「折れた場所は悪くないからいまの痛みに耐えられるんなら何してもいいよ」と言ってくださっていたので。初めての大役、とても素敵な作品で、ジュリエットにとっての4日間と同じように、あっという間に終わってしまう感じだったけど、すごく心に残っています。パートナーの柄本弾さんも上手にサポートしてくださって、本番では一度も痛いと思わなかった。不思議ですね。クラシックにはないリフトがたくさんあるし、感情の移り変わりがとても重要で、技術面でも表現面でも考えさせられる作品でした。


*ターニング・ポイントになりましたね。他にはどうでしょう。

 子どものための『ねむれる森の美女』です。まだほとんど舞台に立ってもいない時期にオーロラ姫役をいただいて、ほんとうに私でいいんだろうか、何かの間違いじゃないだろうか、と思いましたが、やるからにはいい舞台にしようと思って。踊り切った時は嬉しくて涙が出ました。この作品は地方ツアーや東京での再演も多く、場数を踏ませていただいています。毎回少しずつでも、よくなっていけたらと思っています。


*神奈川県民ホールでも踊られる『ドン・キホーテ』について聞かせてください。

15-10.20oki_02.jpg 子どもの頃からキトリのような「強い役」が回ってくることがなかったんです。技術面でも難しいし。だから最初にお話をいただいた時は「無理!」と思って。バジル役の梅澤さんも自分にバジルは合わないと言い張ってて(笑)、でも、やってみたらお互いのやりとりがすごく楽しかった。キトリはちょっと高飛車というか、気が強いキャラクターだと思っていたんですけど、踊る人によっていろんなキトリがいますよね。私のキトリは、ちょっと子供っぽいキトリだと思う。からかったりすねてみたり、無邪気さや天真爛漫な感じがあって、だからこそ街の人気者になっているんだと思うと、とても可愛らしいキャラクターだなと思えてきました。また梅澤さんのバジルが、すごく優しくて。街の女の子にちょっかいを出していても、心の中ではキトリのことを思ってくれているような優しいバジルなので、一緒に踊っていて楽しいですね。


*梅澤さんはどんなパートナーですか?

 やりづらいことがあればすぐに練習してくれますし、何でも一緒に考えてくれます。ほわっとした感じで、そのテンションのままさらっと面白いことを言うんです(笑)。


*ダンサーとしての未来について聞かせてください。

 脚の見せ方とか上半身の付け方とか、まだまだ直さなきゃいけないところがいっぱい。技術や基礎の細かい部分を向上させていくのはもちろん、その上で自分らしさが出せるといいなと思います。きれいに踊るのは生まれ持った条件で、どうにもならないこともあるけれど、個性をその上に乗せて、お客様に楽しんでいただけるようなダンサーになりたい。いまブルメイステル版『白鳥の湖』のキャラクター・ダンスを練習しているんですが、この版では踊り手はみんなロットバルトの手下という設定なので、強さや怖さなど、ダークな部分もうまく出せるようになりたい。私はそこがなかなか出せないので、今後の課題かなと最近は思っています。それから、ジュリエットをまた踊りたい。こういう表現を入れたいな、という思いもあるので、また機会があれば挑戦したいと思っています。


*最後にプライベートな趣味についてひとこと。

 野球を観るのが大好き! ベイスターズのファンで、リハーサルが終わってから急いで着替えてスタジアムに応援に行くことも。今シーズンは7、8回行きました。父が野球好きで、中学生の頃から家族で観に行ってました。選手の顔や名前がわかってくると面白くてはまっちゃって。シーズン後半はあまり行けませんでしたが、よくその日の試合結果が父からメールで送られてきたんですよ(笑)。

 
 『ねむれる森の美女』のオーロラ姫、『ラ・シルフィード』のタイトル・ロール、『ロミオとジュリエット』のジュリエットと、大役を次々に射止めてきた沖。『スプリング・アンド・フォール』では、音楽にふわりと寄り添うような柔らかい動きで魅了する。昨年主役デビューした『ドン・キホーテ』では、梅澤紘貴のバジルとともに、愛らしくはつらつとしたキトリを演じ、役柄の幅をまたひとつ拡げてみせた。間近で見る彼女はほっそりと華奢だが、大きな瞳を輝かせながらはきはきと思いを語る姿は、舞台での姿と同じようにひたむきで、眩しいほどだ。
 「想像することがいちばん大切。頭の中で、こう踊りたいとか、こういうラインを見せたいとかいう思いがあるほうが、そこに近づいていけると思うから」という沖。神奈川県民ホールでの『ドン・キホーテ』はもちろん、ブルメイステル版『白鳥の湖』のキャラクター・ダンスでも、きっと新たな魅力を披露してくれることだろう。
 

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